20世紀半ばから、企業やマーケターは消費者心理について真剣に考えるようになりました。例えば、スーパーのレジ横でキャンディが売られていたり、IKEAの店舗が迷路のように設計されているのも、そうした理由からです。

ではインターネットで買い物をする消費者についてはどうでしょう?オンラインショッパーが商品を購入する際のきっかけ、誘因、背中を押したものは何でしょうか?こうした疑問から、国際物流企業であるUPSは2013年にEC消費者意識調査『UPS Pulse of the Online Shopper』(※EC=イーコマース;電子商取引)を開始しました。

長年調査を続けるなかで、一部では明らかに一貫した傾向やパターンも見られたものの、統計結果には常に新しい驚きがあります。特にアジアの消費者は、他の地域に比べて一見矛盾した行動が見られました。

気まぐれなアジアの消費者

アジアの消費者は、自国外のショップ/セラーに対して興味深い行動を取ることが分かっています。彼ら/彼女らは、ショップ/セラーが海外だと分かると、欧米の消費者に比べて買い物を途中で止める傾向が高い一方で、海外から購入する意欲も非常に高いことが分かっています。実にアジアの5人に1人が、過去3か月に5回以上海外から商品を購入したと回答しています。中国に至っては、その割合は40%以上でした。

こうした結果と海外のショップ/セラーからの購入を途中で止める傾向は、一見矛盾しているように見えますが、さらに統計を探っていくと、ある考察に導かれます。

調査全地域において最も多く購入されているのは洋服ですが、アジアの消費者は他の地域に比べて食料雑貨や日用生活雑貨をネットで購入する割合が高いことが分かりました。また、国内の業者を利用する理由として最も重要な要因は、スピード、配送コスト、価格の安さであると答えています。

その一方で、アジアの消費者が国境を越えて買い物をするのは特定の商品が海外でしか手に入らない場合です。アジアでは中・上流階級層が急速に増加しており、ベイン・アンド・カンパニーによる調査では、特に中国をはじめとするアジア諸国が世界の高級品市場をけん引していると伝えています。この傾向はコロナウイルスのパンデミック後も続くと見られており、この地域の特徴を写し出していると言えます。そこでは多くの消費者がネットショッピングを日常的に楽しみ、すぐにでも届く日用品を買う一方で、別の画面ではスイスから高級時計を、イタリアからパンプスを買うこともあります。そしてそうした特別な買い物であれば、少しくらい待たされることも厭いません。

商品の価格よりも送料が気になる

商品価格は、ほぼすべての消費者にとってもっとも重要なポイントですが、アジアで値段を優先項目に挙げる消費者は、欧米に比べて7~8%低くなっています。次に重視されるのが商品説明で、アジアでは欧米と比較して約10%高い結果となりました。

これが購入した商品の発送となるとアジアの消費者はよりシビアです。カートに商品を入れた後でも途中で買い物を止めてしまう理由として、アジアの消費者の回答では、送料が思ったよりも高いと感じた場合が最も多くなっています。商品価格はそこまで厳しく見なくとも、送料が不当に高いと感じたら、すぐに別のショップを探し始めるようです。価格へのこだわりの低さと商品自体へのこだわりの高さで、貪欲に欲しい商品をネットで探し、やっと見つけたにも関わらず送料の高さにショックを受けるといったことかもしれません。

またアジアの消費者は、国外のショップ/セラーからの商品購入に際し、購入を最後まで完了する割合も、途中で購入を止める割合も、いずれも欧米よりも高いことが分かっています。国外からの商品購入にかかる送料は、ほぼ間違いなく国内のそれよりも高いはずです。

それでも、こうした消費者の購入キャンセルを思いとどまらせるヒントも調査から見つかっています。回答者の37%が、送料を無料にするために追加で商品を購入すると答えているのです。これは売り上げが増えるショップ/セラーにとって喜ばしいことであり、またアジアの消費者が、送料が無料になるのであれば商品自体には少しお金をかけても構わないと思っていることを裏付けています。

結局のところショップ/セラーにとって、お客様に購入を完了してもらうには、送料が安くなる、もしくは無料になるオプションを提供することが最善策と言えます。

ミスには寛容でもサービス品質には厳しい

お客様が商品を受け取った際に、その商品に破損や欠陥があった場合や、間違った商品が届くなどした場合、通常そのお客様は返品を求めます。ショップ/セラー側に落ち度のあるそうした状況では、ほとんどのお客様がその送料はショップ/セラーが負担すべきと考えるでしょう。調査でも全体で同様の結果が出ていますが、アジアではやや結果が異なりました。

ショップ/セラー側に過失があった場合でも、アジアの回答者は欧米と比べて顧客が返品送料を負担することを受け入れる傾向が見られました。そして逆説的に(もしくはだからこそ?)、返品経験に関する満足度は最も低く、約5分の1の回答者が不満を表しています。

こうした結果から、アジアには理解ある消費者が多いという印象を受けるかもしれませんが、実は彼らはサービスへの期待値も高いのです。アジアの消費者は全体的に、悪いサービスを受けた場合に次のような行動を取る割合が平均よりも高いことが分かっています:カスタマーサービスへの苦情、SNSやウェブサイト、オンラインモール上へのネガティブな口コミの投稿、オーダーキャンセルなど。さらに調査では、アジアの消費者はネットショッピングでのネガティブな体験が他の地域よりも多いことも分かりました。

こうした結果から分かることは、ショップ/セラーはシンプルにカスタマーサービスの向上に努めること、特に返品プロセスを顧客にとって出来る限り簡単に低コストにすべきということです。気前の良い返品ポリシーで他社との競争から一歩抜け出すことが出来たショップ/セラーこそが、顧客の継続的なロイヤルティを勝ち取り、さらにネット上での高評価の口コミも得られるかもしれないのです。

複雑でも理解し満足させることはできる

アジアの消費者に満足してもらうことは、そんなに難しいのでしょうか?そんなことはありません。様々な特徴・傾向による複雑さはありますが、それは他の地域の消費者も同様です。何より分かっているのは、アジアの消費者は、イーコマース(EC)が代表する小売産業の新しい時代に非常に熱狂しているということです。欲しいものを貪欲に広範囲に探しつつ、日々のシンプルな買い物も大きくECに頼っています。アジアは、グローバルなECの成長のけん引役とされています。

明らかなことは、消費者の期待値と現実のサービスのギャップは、消費者がEC体験において期待することと不満に思っていることを注意深く確認すれば比較的簡単に埋められるということです。アジアのEC売上は早ければ2022年にも年間1.7兆ドル(約180兆円)に上ると言われています。競争を勝ち抜くためにも、今こそ効果的な越境ECビジネスの運営に努めることが重要ではないでしょうか。

2019年度EC消費者意識調査『UPS Pulse of the Online Shopper』の調査結果はこちらから確認いただけます(資料は英文です)。

※本記事はUPSジャパンより寄稿いただきました。